第7回 「史跡の理解を深めるための3D活用」
柴田 隆史 先生

東京福祉大学 教育学部 准教授
日本学術振興会特別研究員PD、カリフォルニア大学バークレー校ポスドクなどを経て、現在に至る。博士(国際情報通信学)。人間工学の視点から、立体映像が人に与える影響や3Dコンテンツの活用に関する研究に取り組んでいる。


 群馬県に「女堀(おんなぼり)」という国指定史跡があります。一般には赤堀花しょうぶ園としても知られていますが、女堀とは、全長13km にも及ぶ、平安時代の終わり頃に造られたかんがい用水路跡です(図1)。全国的にも極めて大規模な用水路跡にもかかわらず、古文書に記録が一切残っていないため、誰がいつどのような目的で掘ったのかも明らかになっていません。現在は、良好に保存されている6箇所が国指定史跡となっています。そして、そのうちの一つである赤堀地区は、伊勢崎市教育委員会文化財保護課により調査が進められています。

 発掘調査では、文字通り地面を掘り下げて、用水路が造られた年代や当時の工事状況を調査します(図2)。現地で実際に見てみれば、地面が掘られて凹んでいる様子や立体的な構造がはっきりと分かるのですが、通常の2D写真からそれをつかみ取るのは容易ではありません。また、現地説明会などの機会でない限り、一般の人はなかなか実際にその様子を見ることができないのが実情です。そこで、3Dを活用することで調査現場の様子を分かりやすく表現し、史跡や地域の理解を深めることを目指した取り組みを行っています。


図1 花しょうぶを植えて利活用されている女堀
(花しょうぶの場所が用水路跡)

図2 発掘調査をしているときの女堀
(この様子も3Dで見ると構造が分かりやすくなります)

 具体的には、3Dムービーによる教材を作成したり、掘り下げられた発掘現場の様子を上空から撮影してステレオ写真を作成したりしています。図3のアナグリフ(赤青)3D画像は、高度53mの位置から16mの間隔をあけて撮影した2枚の画像をステレオ加工したものです。仮に私たちが空を飛べたとしても、私たちの眼は6cmくらいしか離れていないため、図3のような立体感は得られません。3Dを活用することで、普段は見ることができない立体的な様子を観察できるようになります。立体的に見ると分かりやすくなるものなど、3Dの機能性が活かされる場面はたくさんあると考えています。


図3 上空から見た発掘調査の様子(赤青3Dメガネで見ると凹凸が分かります。中央辺りで縦に延びている白い部分は人が歩ける通路です。その右側が女堀で、幅は約27mあります)